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東京地方裁判所 昭和25年(ヨ)299号 決定

申請人 全日本金属労働組合東京支部

日本特殊鋼管砂町分会

右代表者 委員長

被申請人 日本特殊鋼管株式会社

被申請人 日本熔接鋼管株式会社

一、保証 無保証

二、主  文

別紙目録記載の申請人組合の組合員に対し、被申請人日本特殊鋼管株式会社は、右目録「甲欄」記載の金員を被申請人日本熔接鋼管株式会社は、右目録「乙欄」記載の金員を、それぞれ支払わなければならない。

申請人その余の申請は、これを却下する。

三、理  由

当事者等の提出した疏明方法により当裁判所が一応認定した事実に基く理由の要旨は、次のとおりである。

一、別紙目録記載のものは、もと被申請人日本特殊鋼管株式会社(以下「特殊鋼管」と略称)砂町工場に雇われていた従業員であつて、申請人組合の組合員である。

二、昭和二十四年七月一日「特殊鋼管」と被申請人日本熔接鋼管株式会社設立と同時に設立中の会社の権利義務を承継した。

(一)  「特殊鋼管」は、その所有に係る砂町工場を、期間五ケ年の約束で、「熔接鋼管」に賃貸すること。

(二)  「特殊鋼管」が現在雇用している勤務員(別紙目録記載のもの)のうち少くとも四十名(職員三名、工員三十七名)は「熔接鋼管」が新規採用するものとし、その給与額は、「特殊鋼管」が従来支給したものを下らないこととし、その採用の時期及び人員は、当事者会社において協議すること。

(三)  賃貸物件中、鋼材撤去、屋根補修及び地盛は「特殊鋼管」においてこれをなし、変電所、電気炉ポンプ室等の撤去及び護岸工事は当事者会社協議の上これを行うこと。

という趣旨の契約が成立した。

三、一方同年八月二十六日、申請人組合は、「特殊鋼管」とのあいだに

(一)  別紙目録記載のものを含む砂町工場従業員を同月三十一日附を以て解雇する。

(二)  従業員退職手当暫定措置第二条所定の「退職金」は、これを支払うが、同第四条所定の「特別手当」(所定の退職手当の五割及び第二条所定の退職手当支給基準額〔本給、並に生活保証給の月額と家族給月額の二分の一を併せた額〕の一ケ年分)は、これを支給せず、解雇手当として基本給の六ケ月分を支給する

旨の協定が成立し、これに基き、従業員の解雇が行われた。

四、この点に関し申請人は、

(一)  右協定にいう六ケ月分の「解雇手当」は、退職金としての「特別手当」に代るものであつて、その本質は退職金である。従つて、五日の予告期間を存してなしたにすぎない、本件解雇に付いては、「特殊鋼管」は、労働基準法第二十条に従い、二十五日分の予告手当を支払わなければならないのであるが、「特殊鋼管」は、これを支払わず、また、これを支払おうとしないから、右解雇は無効である。

(二)  右協定は、「熔接鋼管」が、同年十月一日以降別紙目録記載のものを正式に雇用することを条件として結ばれたものであり、その正式雇用が実現せられない場合には、右協定は無効となり、「特殊鋼管」の従業員たる地位にとどまるものである。

と主張する。しかしながら、

(一)  「特別手当」の代りに「解雇手当」を支給することとしたのは、後に述べるように、「特殊鋼管」がその従業員の就職を保証したことによると解すべきであるから、「退職金」のほかに、特に、解雇後の生活を保障する金員を支給する必要はないというべきであり、「解雇手当」は、これを文字通り解し、右六ケ月分の支払により、労働基準法第二十条の要件を充足し、従つて、右解雇は有効であるということができる。

(二)  また、本件解雇が、被解雇者を「熔接鋼管」へ就職させるということに関連して行われたことは明かであるが、「熔接鋼管」への正式雇用が行われない場合には、右解雇を無効とするという意思で、前記協定をしたということを認めるにたる疏明資料はない。従つて、別紙目録記載のものが「特殊鋼管」の従業員たることを求める申請人の本件申請は爾余の判断をまつまでもなく失当である。

五、このように本件解雇は復職の条件を伴うことなく有効になされたものといわざるを得ないのであるが、被解雇者の解雇後の待遇に関し、「特殊鋼管」に何等の責任がないということもできないその理由と、責任の内容は次のとおりである。

(1)  (一) 本件解雇につき、申請人組合は、「特殊鋼管」とのあいだに、前記のように「特別手当」の請求を抛棄して、「解雇手当」を以てこれに代える旨の協定を締結したのであるが、これにより、被解雇者は、基本給六ケ月分と「退職金」の半額及び解雇予告手当相当額の請求権を抛棄したことになる。(本件解雇が「会社の都合による」ものであること、〔特別手当を支払うべき場合〕はいうまでもない。)ところで一般に契約(協約)により権利を抛棄する場合には、必ずや、その抛棄を正当づけるような約因(対価)が存すべきであり、もし、その約因を欠くときは、かかる権利の抛棄は、無効であるか、或いは、これを強制することができないと解するのが相当である。ここで、右協定が有効にして、且つ、強制力を持つための約因を求めるならば、それは、「特殊鋼管」が、被解雇者及び申請人組合に対し「熔接鋼管」に正式に採用せられ、その従業員として安定した地位と賃金とが与えられることを保証した点にある、ということができるであろう。すなわち、「特殊鋼管」は、昭和二十四年三月、企業整備により砂町工場の機構を縮少し、別紙目録記載のものの他数名が、経験技術者として残つたのであるが、「特殊鋼管」は、前記のように、砂町工場を「熔接鋼管」に賃貸することとなつたので、同年六月十八日以降申請人組合に対し、その組合員を全部「熔接鋼管」に就職させることになつたことを強調して、会社提案を承認すべきことを要請し、申請人組合員も、確実な就職が可能であるとして、会社案を受諾し、八月二十六日の前記解雇に関する協定が成立したのである。この点に関し、「特殊鋼管」は、右八月二十六日の解雇は、三月末の企業整備に伴う解雇とその事情が同じであり従つてその解雇条件も同一であるのは当然である。(三月の場合も「特別手当」は支払わず、基本給の六ケ月分を解雇手当として支払つた)と主張するが、三月の場合は、その人員整理が企業経理上やむを得ないと認められるに反し、八月の場合は、砂町工場の賃貸により、「特殊鋼管」も或る程度の利潤を得る目的を持つていたこと、又、三月の場合の被解雇者は、余剰人員であつたのに対し、八月の場合は、経験年数の永い技術優秀者であつたこと等に徴すれば、三月の協定と八月の協定とが同一の事情のもとになされたと解することはできない。

かくて、「特殊鋼管」は、申請人組合に「特別手当」の請求権の一部を抛棄せしめたことの対価として、その組合員を確実に「熔接鋼管」に雇用させる義務を負担したことになる。

(二) そこで、「特殊鋼管」の負う責任の内容について考察すると、「特殊鋼管」は、申請人組合の組合員が抛棄した請求権に相当する金額(「特別手当」と「解雇手当」との差額に解雇予告手当相当額を加えた金額)を限度として、

(1) 被解雇者が「熔接鋼管」に正式に雇入れられるまで、雇用の始期として言明した日時(本件では十月一日)雇入後与えられると言明した労働条件(本件の場合では、解雇時のそれを下らない労働条件)で就業したと同様の賃金を被解雇者に取得せしめる。

(2)  正式の雇用が不可能となつた場合には、これに基く損害を賠償する義務があるということができる。

六、よつて本件について、解雇後の経過をみると、

(一)  「熔接鋼管」は、「特殊鋼管」に対し十月一日までに申請人組合の組合員を正式に雇用することを約し、九月一日以降は、別紙目録記載のもの(但し吉野松太郎を除く)を臨時に雇入れたこととして、砂町工場の整備工事に従事せしめ、これに対し従来の賃金(月額)を三十分してこれを日給の額とし出勤日数に応じて、支払つており、又、健康保険厚生年金等についても「熔接鋼管」がその責任者となつた。

(二)  その後、十月一日になつても正式の雇用は行われず、別紙目録記載の組合員は、日日雇入れの形式で「熔接鋼管」に雇われ、十月三十一日まで右工事に従事しており、これに対しては、所定の賃金の支払を受けていた。

(三)  しかるに「特殊鋼管」は、「熔接鋼管」に対し、十月三十一日限り砂町工場の整備工事の中止を通告し、これがため、「熔接鋼管」は、別紙目録記載の組合員(但し、吉野松太郎を除く)に対し、右十月三十一日を以て作業を中止し、十一月一日以降休業することを通告した。その後、右組合員はそれぞれ出社して労務を提供しているが、「熔接鋼管」はこれを拒否して、現在に及んでいる。

七、このような事実関係によれば、

(一)  別紙目録記載の組合員(但し、吉野松太郎を除く)は一ケ月以上「熔接鋼管」に日日雇い入れられているのであるから右組合員に対する解雇の意思表示の認められない本件においては、右組合員は、「熔接鋼管」の従業員たる地位を保有し、「熔接鋼管」は、これに対し、賃金又は休業手当を支払うべき義務がある。

(二)  そこで、民法第五百三十六条第二項(労働基準法第二十四条)と労働基準法第二十六条の関係が問題となるのであるが、

(1)  特約なき限り、右第二十六条が「百分の六十」の休業手当を支払うべきことを要求することにとどめている点に徴すれば、同条にいう「使用者の責に帰すべき事由」とは、民法第五百三十六条にいう「債権者の責に帰すべき事由」よりは範囲がせまく、休業をするに付き、使用者側に不可抗力まではいたらないが、或る程度やむを得ない事情(主として、経営経済上の理由に基くものであつて、たとえば、休業をしなければ、企業が将来成り立たないというような事情)が認められる場合に限り右第二十六条の適用がある。(かく解することによつて、使用者が経営者として有する利益と労働者の最低限度の生活とを調和させることができるのである。)

(2)  右第二十六条が、休業による余剰の労働力による収益を問うことなく平均賃金の百分の六十を労働者に確保していることにかんがみれば、民法第五百三十六条第二項但書による利得の償還は百分の四十を限度とする。

(3)  民法第五百三十六条第二項による賃金を請求するためには、労働者は労務を提供しなければならないが、休業手当の場合は、これを要しないと解すべきである。

本件についてみれば、「熔接鋼管」は、資金上砂町工場の経営が困難となり、前記組合員に休業を命じたのであるから、右(1)の場合に該当し、従つて、右組合員に対し、昭和二十四年十一月一日以降平均賃金の百分の六十にあたる休業手当を支払うべき義務がある。

(二)  又、申請人組合の組合員はいずれも「熔接鋼管」に正式に雇用せられていないのであるから、「特殊鋼管」は、前記の責任額の限度において、昭和二十四年十月一日以降、右組合員に対し、これに保証した解雇当時の賃金相当額の支払を担保する義務がある。

而して、「特殊鋼管」の負担する義務は、右にのべたような担保義務であるから、申請人組合の組合員はまず「熔接鋼管」に対して、履行の請求又は執行をなすべく、これにより弁済を受け得ない限度において「特殊鋼管」に支払を求めることができると解すべきである。

しかるに、申請人組合の組合員は、同年十月三十一日までは、その賃金の支払を受けているから、「特殊鋼管」は同年十一月以降の分について担保責任があることとなる。

八  申請人組合が請求する昭和二十五年一月二十八日までの分をみれば賃金相当額は、別紙目録「甲欄」記載のとおりであり、又休業手当の額は同「乙欄」記載のとおりである。

九  「特殊鋼管」の負担する債務は、前記のように従属的性質のものであるが、その従属性は履行の過程において認められるべきものであるから、「特殊鋼管」に対しては、一応賃金相当額全額の支払を命ずることができる。

一〇  賃金労働者が当然取得し得べき賃金の支払を受け得ないことはいちぢるしい損害であるから、別紙目録記載の申請人組合の組合員に対し、「特殊鋼管」は、右「甲欄」記載の金員を、「熔接鋼管」は、同「乙欄」記載の金員をそれぞれ支払うべきことを命じ、その余の申請人の本件仮処分申請はこれを却下すべきものとし、主文のとおり決定したしだいである。

(裁判官 柳川真佐夫 中島一郎 高島良一)

別紙債権表<省略>

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